Maruszczyk Instruments
ポーランド製Maruszczyk Instruments SPUTNIKシリーズと思われる26フレット仕様の6弦ベース。
以前の調整時に逆ネジである事や効きが甘い事からなんとなく気にはなっていましたが今回トラスロッドを締め過ぎて、ナットがねじ切れた状態でのお持ち込みとなりました。
指板を剥がす
◯指板上からヒーターとスチームで接着剤を軟化させてパレットナイフを差し込み指板を剥がす
◯メイプル材のロッドキャップを抜き取る
◯トラスロッドを外す
指板が一部すでに隙間が出来ていた為すんなりと指板が剥がれました。
トラスロッド自体はオリジナルの形状でブロック状のストッパーが両端にありひどく錆びた状態。しかもストッパーの役割をするヘッド側にもネジが切ってあり可動するという不思議なデザイン。
考える程に謎ですがとりあえず後学の為とりはずして保管してあります。
トラスロッドの作成
◯直径5mmの鋼材丸棒を目的の長さにカット
◯両端をダイスでネジ切り
◯ヘッド側ストッパー金具を適切な四角形に切り出してタップでネジ切り
◯さらにストッパー金具を溶接→成型
◯26フレットの長い指板に合わせて指板エンド調整側のナットの位置を長めに修正
◯併せて調整側のストッパー位置も変更→落とし込み溝を切削
元の状態は26フレット仕様で調整用の六角レンチを差し込むナットがかなり奥まった場所にありました。
指板エンドから見えるくらいにトラスロッドを長く変更しました。
トラスロッドの形状は汎用的なものを新規に作成。
トラスロッドチャンネルの修正
画像にはありませんがトラスロッドの効く位置を修正してあります。
このベースは構造上、低音弦側が13フレット付近までボディと接地しているにもかかわらずトラスロッドがいちばん効く位置が12フレット付近のため指板面に無理が生じていました。
トラスロッドチャンネルの修正とロッドキャップの新規に製作して効く位置をヘッド側10フレット近辺に移動してあります。
接着面の修正
◯ネック側の変形した接着面を平面に修正
◯新規に製作したトラスロッドとロッドキャップを埋め込む
指板の接着
◯修正したネックに指板をクランプして圧着
◯硬化後にフレットを抜き指板修正
◯Rゲージを自作してコンパウンドラディアスに仕上げる
◯フレットをプレス
◯フレットをすり合わせ→研磨
6弦ベースで26フレットという巨大な指板。
感覚的には通常のベース4本分くらいの労力でした。
じつは初期段階で指板の割れを確認していましたがそちらもなんとか修正できました↓
このひび割れ部分が無理をしていた部分。
接着剤がうまく浸透してくれたようです。
指板とネックの段差の修正
次の懸案事項
こちらもお持ち込み段階で確認していた事です。指板が「くの字形」に反っています↓
こちらの画像ではわかりづらいですが最初からこの「ずれ」による段差がありました。
(画像上)1弦側にストレートをあてているが9フレット〜3フレット付近まで隙間
(画像下)白い線状に写ったネックと黒い指板の間に見える影の部分が発生している段差
指板をヒーターで温めて修正、ネックを削っての修正はリスクが高いので断念。
エポキシ塗料(艶消しクリア)にて段差を埋めることにしました。
◯指板の湾曲(正面図)
◯塗装部図解
◯エポキシ塗料(艶消しクリア)を指板サイドからずれ部を中心に盛る
◯指板サイドを成型
◯研磨
ブリッジのリセス加工
以前からの問題でしたがこのオーナーは低めの弦高がお好みだったのですがサドルの高さ調整幅が少なく目的の弦高になりません。
ブリッジ下をザグリを掘り下げて修正しました。
◯アッセンブリーを取り外す
◯MDF板の型でトリマーベースを作成
◯ベアリングビットで2.0mm掘り下げる
◯ノミで角を成型
◯ブリッジをセット
フィンガーランプの加工
弦高が低くなった分、フィンガーランプの高さも修正します。
完了
トラスロッドが折れるということは起こってはいけない事です。この先一生起こらないようにと、慎重に考慮して取り組みました。
たいへん美しい楽器です。末長く楽しんでいただければと思います。